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  • インタビュー

【関⻄⼤学】大学教授に聞く「年金」と「保険」の話。将来を守るお金との向き合い方

「今後の社会保障や年金は本当に大丈夫?」
「なんで毎年社会保険料が上がるの?」
「お金について不安があるけど、どうすればいいか分からない…」

今後のライフプランを考えるにあたって、避けては通れないお金の問題。

今回は関⻄⼤学石田成則教授に直接インタビューし、社会保障の仕組みや将来の不安に備えるお金との向き合い方についてお聞きしました。

「金融包摂」は世界的な課題

現在研究されている内容について教えてください。

石田教授

「金融包摂」と「プロテクションギャップ」を関連づけた研究です。

金融サービスを受けられていない人々が経済的に安定した暮らしができるようサポートする「金融包摂(ファイナンシャルインクルージョン)」は国連のSDGsにも含まれる世界的課題です。

後進国なら銀行口座を持てる。先進国では、自分に合った金融商品や投資商品を選択できる。

このような「金融包摂」を多くの人に対して実現できる環境を、どう作っていけばいいのかが一つの研究テーマです。

金融包摂(ファイナンシャルインクルージョン)とは?
金融サービスを受けられていない人々が経済的に安定した暮らしができるよう、基本的な金融サービスの利用をサポートする取り組み。

では、プロテクションギャップとは何でしょうか?

石田教授

損失に対して期待される補償と実際の状況の差を指します。

例えば、地震保険という任意保険は、加入率が3割程度しかありません。

残りの7割は必要性を感じていたとしても、実際に加入はしていない。

現状では加入者が少なく、被害を受けた人が十分な補償を得られないため、「プロテクションギャップ」があると言えます。

老後に必要な金額に対して、年金と貯蓄・投資で賄える部分を計算してみると、老後資金がショートする。これも年金におけるプロテクションギャップです。

プロテクションギャップとは?
損失に対して期待される補償額と、実際に補償されている金額の差(ギャップ)。

地震保険の加入率が低いのは、どうしてでしょうか?

石田教授

一番の大きな理由はリスク認知の問題です。

地震は起こった時の被害は大きく積み重なりますが、発生確率は非常に低い事象です。

発生確率の低いリスクについて、十分な認知ができておらず自分事だと捉えていない人が多い状況が、任意保険である地震保険への加入率にあらわれています。

個人・企業を問わない問題として、リスク認知の低さだけでなく「チャリティハザード」も挙げられるでしょう。

チャリティハザードとは、被災をしても国や地方自治体が支援してくれる。企業なら、銀行などの金融機関が支援してくれる。

最初から支援を頼りにして、自己責任で被害があった後の資金調達をしようとする意識が低下してしまうんですね。

チャリティハザードとは?
国や自治体、金融機関の支援に頼る前提で、自己解決・準備をしようとする意識が低下する状態。

関西大学

年金制度の在り方が変化しつつある

年金制度って本当に破綻しないんですか?若い世代は払っても返ってこないイメージがあります。

石田教授

少子高齢化によって、今後給付額が減っていくのは事実です。

2004年に労働力人口の減少・寿命の変化に合わせて給付額を減らす「マクロ経済スライド」を導入した結果、年金の給付と負担の構造が大きく変わりました。

従来は高齢者の年金と若い人たちの平均賃金の割合(所得代替率)を6割から6割5分程度に固定していましたが、少子高齢化が進むと保険料がどんどん上がってしまいます。

2004年の制度改正によって、給付率を固定する「保険料率固定型(保険料水準固定型)」に方向転換し、2017年の18.3%で高齢化に合わせた保険料率の上昇にも歯止めがかけられたんです。

労働力人口が減る分現役世代の負担も厳しくなるので保険料率を固定しましたが、そうなると年金の給付額は労働力人口の減少に合わせて減らしていくしかありません

人々が長く生き、長く年金をもらう分月々の年金給付額を将来的に減らす一方、若い世代の負担に歯止めをかける。これが「マクロ経済スライド」です。

マクロ経済スライドとは?
労働力人口の減少・寿命の変化など、社会情勢に合わせて年金の給付額を自動的に調整する仕組み

自分で積み立てた年金が戻ってくるような仕組みにはならないですか?

石田教授

少しずつ積立に近い方向性に変わっている状況です。

マクロ経済スライドは賛否両論ある改革でしたが、国の年金制度の持続性を高める点においては効果的だったと考えています。

従来の給付率固定型から保険料水準固定型に移り、2017年以降は18.3%の保険料を毎月毎月積み立てているのが現行の年金制度です。

今はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が220兆円を超える年金資産を運用し、その収益で年金給付を一部賄う動きも行われています。

その意味では従来の賦課方式(若い世代が高齢者を支える方法)から、将来に自ら保険料を積み立てる方向へ少しずつ変わりつつあると言えるでしょう。

社会保険料が年々高くなるのも少子高齢化が原因と言われますが、具体的には何が起こっているんですか?

石田教授

社会保障給付の中でも、介護保険・医療保険の影響が大きいです。

年金の給付額は大きく増えていない一方、社会保障給付の中で介護保険と医療保険…特に後期高齢者医療制度がすごく伸びているんです。

介護保険は地域格差が大きく、月々の支払額が平均では6,000円~7,000円ですが、安い所で3,000円、高いところは1万円近く。

介護制度が充実していたり、山間僻地だったりする地域はどうしても介護保険料が高くなってしまいます。

そして、後期高齢者医療制度に対して健康保険組合が多額の支援金を出していて、ここが膨らんでいるのが社会保険料上昇の大きな要因です。

賃金は横ばいですから、税金や社会保険料が上がると可処分所得(手取り額)が低下してしまう状況になっています。

若い方たちほど低い手取りで苦労されている分、節約志向が顕著ですね。

老後の備えは個人の責任が大きくなっている

我々労働者の世代はどのように老後に備えれば良いでしょうか。

石田教授

国からの年金給付額が減少する分、私的年金で補う必要があります。

現在、国の政策では公的年金と私的年金を合わせて現役世代の平均的収入の6割を達成する方針です。

私的年金には大きく2種類がありまして、1つが企業年金。もう一つが個人年金(個人年金保険)。

厚生年金基金のように老後に決まった額を貰える「DB型企業年金」では運用資金が不足する企業が続出したため、今はDB型企業年金を給付する企業はほとんどありません。

結果、従業員と企業がお金を積立てて、お金の運用は個々の従業員に任せ、企業は関知しない「DC型企業年金」が主流になりつつあります。

自分のお金と企業が一部払ってくれたお金を投資運用する対象を自己責任で選ばなくてはならないため、従業員側の運用責任が非常に重くなりました。

DB型企業年金とは?
DB=ディファインドベネフィット、「確定給付企業年金」とも。従業員が老後に決まった額を受け取れる企業年金。

DC型企業年金とは?
DC=ディファインドコントリビューション。従業員と企業が共同でお金を積立て、運用は従業員に任せる企業年金。現在はこちらが主流。

もらう側からすると、DC型よりDB型がいいですよね…。

石田教授

税の優遇がある反面、制約やリスクが多いのは事実です。

DB型の企業年金では損失が出ても企業が利潤から補填をしてくれましたが、今は完全に自己責任です。

掛金については一定の控除が受けられて、運用収益には基本的には税金がかかりませんから、収益が出せた時のメリットは大きいでしょう。

反面、上手く行かなかった時の損失も全て、自分が被らないといけません。

また、60歳まで、正確には59.5歳までは自分の積み立てた資金の引き出しができないのも制約と言えますね。

老後の所得保障を目的とした制度とはいえ、緊急資金として引き出しが可能になる制度を今後導入する必要があるかと思われます。

「日本人=金融への意識が低い」とは限らない

「日本人は金融リテラシーが低い」と聞いたんですが、本当なんでしょうか?

石田教授

他国との比較方法に問題があるので、正しいとは言えません。

諸外国と日本を比較する際、日本人がお金を預ける運用先は預貯金が非常に多く、証券会社等を通じた投資商品は割合が低い、という話がよく言われていますね。

これは需要側・供給側の要因投資する側の要因、金融機関側の要因が両方あるので、金融リテラシーだけが根拠になる話ではありません。

日本は銀行の存在感が非常に大きい「間接金融市場」で、ヨーロッパの一部の国やアメリカ、イギリスあたりは証券会社などが強い「直接金融市場」。

元々その国で存在感のある金融機関は産業構造・市場構造で異なるため、同じ視点で単純比較するのは不可能だと思っています。

では、日本人が投資商品をあまり買わないのはなぜでしょう?

石田教授

高度経済成長期の成功体験が関わっていると考えます。

間接金融市場の日本ではあまり投資家がいないので、高度経済成長の際は企業が得た利潤を投資家よりも従業員に還元し、どんどん給料やボーナスを増やしました。

そういう成功体験から、会社のために頑張って働いていれば給料も伸びる。汗水垂らして働けばいい。と考えるんです。

アメリカやヨーロッパの企業は、儲かったら株主や投資家に全部還元して従業員はそんなに給料が上がりません。

そういった国では過去のインフレや金利の上がり方から、投資をして「お金に稼いでもらおう」とするわけです。

「お金に稼いでもらう」感覚がないのは日本特有の話なんですか?

石田教授

これは日本の「低金利政策」が影響しています。

過去に大きなインフレを経験した国では、インフレに合わせて高い運用収益を得られる投資商品に多く資金を回している背景があります。

一方で日本は、高度経済成長の時の「狂乱物価」と言われる一時的なインフレは経験していますが、基本的に戦後ずっと「低金利政策」を取ってきました。

「低金利政策」とは、企業は銀行から安い利子でお金をどんどん借りて、設備投資に回して経済を成長させる国策ですね。

企業にお金を安く貸す限り銀行は大きな収益を得られないため、預金者に高い金利を払えません。

だから「金融機関にお金を預けると儲けられる」発想は日本人にとって遠い感覚になるんですね。

個人の金融リテラシーよりも、国の制度や構造から来る話なんですね。

石田教授

過去の成功体験を基に行動している限り、袋小路ですね。

決して日本人が投資を嫌がってるとか、考えてないとかではなく、どちらかと言えば成功体験…今までやってこれたからそうなっているにすぎません。

ところが日本の経済力が低くなって企業も高い収益を上げられず、成長できない。そして従業員の給料も上がらない。

労働分配率はもう20年間ほど下がり続けているんですが、過去の成功体験があるのでなかなか頭が切り替わらない。

そうして一生懸命働いていればなんとかなる。と思ってしまっているのは、日本全体にとって不幸な話だと思います。

今まで通りの生き方では絶対に良くならないということでしょうか。

石田教授

成功体験に固執せず、考え方を変える必要があるでしょう。

2008年までは人口が増え経済は順調に成長していました。

2008年以降、人口の減少に合わせて経済の成長も鈍化し、労働力人口も減り、企業は大きく成長しなくなっている。

少子化と高齢化が同時に起こった結果、社会保障が厳しくなると同時に働く人たちの給料も伸びなくなるダブルパンチです。

こういう時代は、自分が今まで蓄えたものを増やしていく動きが大事になっていきます。

環境の変化に伴って、自分の思考を変えていく時期が来ているんですね。

関西大学

お金の習慣は家庭環境から引き継がれる

高度経済成長期を経験していない世代でも、成功体験の共通認識があるのはなぜですか?

石田教授

子は親の金銭感覚に影響を受け、引き継ぐのが理由でしょう。

学生と話をしていると、お小遣い帳や家計簿をつける子はほとんどが親御さん、特にお母さんが家計簿をつけている人なんです。

小さい頃から「お小遣い帳をしっかりつける」ように教育されていないと、なかなか習慣として身につかない。

個人が持っているお金を増やすには、金融教育よりも先に「お金の大切さを伝える教育」が必要なんです。

親世代が過去の成功体験に則って考えているのは子どもにも伝わるので、代々そういった習慣は引き継がれてしまいますね。

親がお金に無頓着だと、子は将来困窮せざるを得ないんでしょうか…?

石田教授

習慣の引き継ぎを意識し、脱却できればその限りではありません。

親から引き継いだ価値観で生きていると、家計簿を付けない親の子は家計簿を付けないままです。

お金を管理しないリスクは大きく、学生さんで言えば将来奨学金を返せなくなり、昼夜働かざるを得なくなる事例も無視できない数になっています。

習慣の引き継ぎ・連鎖を断ち切るには、今までの習慣や成功体験を根底から変える必要があるでしょう。

習慣を変えようとするのは並大抵の苦労ではありません。学生の研究だと「家計簿アプリをインストール後、継続できなかった人は約8割」との結果もありまして…。

しかし、子の将来を思うのであればご家庭でお小遣い帳をつけるよう教育する、自分の将来に備えるならば家計簿をつける…まずは継続を目標に少しずつ今ある意識を変えていくべきですね。

学校教育では対応が難しい問題なのでしょうか?

石田教授

2022年から高校の家庭科で金融教育が義務化されましたが、問題点が多いです。

まず、高校生からの教育では遅く、もっと小さい頃から教えた方が良いと思っています。

加えて、家庭科の教育では金利や為替の話には深く立ち入らず、家計の管理や家計簿の話に終始してしまうんです。

経済動向や政策の話まで理解できるようにするのが金融教育の第一歩。

そこについて専門ではない先生だと教育するのが難しく、かといって中立的ではない外部に任せると金融教育が歪むリスクもあるでしょう。

日本は、国として使った税金についての政策検証や議会に対する報告義務がありません。

効果検証も十分にせず「予算を付けて実行した」だけになってしまわないか懸念しています。

被害を未然に防ぐ保険の形が求められる

教授が「あったらいいな」と思う保険や制度は、どんなものですか?

石田教授

キー紛失や忘れ物を保障する保険ですね。

私は一度ホテルでキーを失くして弁償しているんですが、その辺りを保障してくれる保険があると安心できます。

しかし、この保険があると私のようにキーを失くす人がますます増えるでしょうから、実現は期待できません。

日本でも実現可能性がある保険として、アメリカの事例をお話しましょう。

アメリカの洪水保険や地震保険では最近、個人が受けた被害とは無関係に、その地域で「一定の指標を満たす被害規模の洪水・地震等が起こった」段階で自動的に保険金を払う「パラメトリック保険」が注目されています。

保険会社側が現地で損害査定をしないので、パラメトリック保険は保険料が決定的に安くなるし支払いも迅速なんですよね。

支払いが早いほど災害復興にも役立ちますし、地域の被害比率に合わせて保険金を一律に払ってあげる仕組みはあると良いかなと思っています。

パラメトリック保険とは?
損害と因果関係のある指標(パラメーター)がある段階に達した時、契約で定められた金額の保険金を一律で支払う仕組み。

研究テーマの「プロテクションギャップ」にも関わるお話ですね。

石田教授

災害時の被害抑制に繋がるような仕組みの保険があると良いでしょう。

身近な話で言うなら、個人の一日の歩数や運動時間、ジムに通うなどの行動の結果、医療費に貢献したか、体質がどの程度改善したかを合わせて保険料を割引する保険もあり得ます。

あとは、防災をしっかりやっている地域の地震保険料自体を引き下げるような仕組みも良いですね。

防災が行き届いていて、結果的に保険料が安いことに魅力を感じる人が移住する可能性が出てくると、人口を増やしたい市町村は防災に力を入れるでしょう。

実際に災害で被害が発生しても被害を最小限に留められるので、二重三重の効果が期待できますね。

自然災害でも人々の健康でも、民間企業からもっと発案して「官と民」「公と私」が協力できる仕組みの必要性を感じています。

「国から」ではなく「民間企業から」発案すべきなんですか?

石田教授

民間企業から連携・人材交流をしないとなかなか進みません。

日本は特に地方自治体と地元の民間企業との連携が遅れているんですが、上手く行っている自治体って民間側がイニシアチブを取っているんです。

私は色々な自治体の委員会に出る機会があるんですが、元役人、元会社の重役、…そしてこれは自虐になりますが、大学の先生あたりは地域の活動であまり役に立たない(笑)

専門的な知見をひけらかすばかりで、なかなか溶け込めないんですね。

官と民、公と私の隔たりが日本では依然大きいので、様々な意味で民間の工夫を取り入れた方策がこれからの日本を救うのではないでしょうか。

関西大学

教授直伝!今後注目したい保険&制度

知名度があまりない、でもおすすめの保険ってありますか?

石田教授

「アカウント型」の個人年金保険はどうでしょうか。

民間の個人年金には、収入が低い時は安い保険料、収入が高くなり、多くのお金を口座(アカウント)に入れれば入れた分だけ老後もらえるお金が増える「アカウント型」の保険があります。

若い時は給与も低く将来の準備をするのは難しいですが、中高年になると、ある程度お金を用意できる方も増えますから、そこで備えを増やせるような保険は必要性が高いでしょう。

定額を積み増すのではなくて、所得や貯金額に応じて自由に調整できた方が生活に支障もきたしません。

iDeCoのような制度でもお金がある時に積み増して所得が高い時の税の優遇を厚くできれば良いんですが、今はそういう仕組みが基本的にないんですね。

毎月の保険料が高額だと、生活に困った時解約せざるを得なくなってしまいますからね。

石田教授

多くの人が継続して保険に加入し続けるには、税の優遇が必須でしょう。

iDeCoに関連して、従業員が1万円の掛金拠出をしたら、事業主が1万円、同じだけの掛け金を出してあげる「マッチング拠出」という制度があります。

こういった制度を国として導入し、かつ高所得者優遇にならないよう中小企業で資金準備を充実させていく発想が大事だと思います。

例えば中小企業に限定してマッチング拠出が広まるよう優遇するだとか…。

そうすると中小企業の従業員自身が1万円払ったら2万円を原資として積み立てて運用できるようになるわけです。

マッチング拠出とは?
事業主が拠出した掛金に対して、加入者が一定の範囲内で掛金を上乗せして拠出できる制度。

マッチング拠出は会社の資産を高める

中小企業に対象を絞るのは、大手企業は既に企業年金が充実しているからでしょうか?

石田教授

加えて、中小企業には比較的所得の低い従業員が多いためです。

38ヶ国の先進国が加盟する「OECD」で行った調査では、企業年金における年金資産が急速に伸びているのはスウェーデン・カナダ・アメリカ・イギリスなどでした。

日本・ドイツ・イタリアなど公的年金が充実した国の年金資産はほぼ増えていません。

年金資産の積み上げを目指すにあたって税の優遇措置がもたらす効果には限界があり、所得の高い人だけを優遇すると年金資産が減ってしまうことも判明しています。

低所得層、中小企業に勤めている層を蔑ろにしては年金資産が増えず、企業の金融資産の一つである年金資産が伸びなければ市場もなかなか活発にならない。

公平性・平等性・普遍性を担保する仕組みを設けると、結果的に金融市場全体が活性化するわけですね。

ですから、中小企業の従業員に対するマッチング拠出の充実が大きな鍵になってくると考えています。

中小企業だと「そんなお金の余裕がない」と考えるオーナーさんが多そうですね…。

石田教授

企業にとってのメリットも大きいので活かしてほしい所です。

確かにランニングコストは大きくなるのですが、「マッチング拠出」は労働者だけにメリットがある話ではないんです。

きちんとお金を出して「ここは良い会社だ」と思った労働者は長く勤めてくれるし、会社の良い評判も話しますから、新規応募も増えて人事面でプラスになる。

そして、あまり手取りがなく苦しいとしても少しずつお金を出せる従業員は、将来を見越している人材です。

先々を考える能力は仕事の段取りにも繋がり、そういった能力のある社員が留まる理由になる。

人事労務の施策としても、従業員のモチベーションにおいても、コストを掛ける価値があると言えるのではないでしょうか。

保険の申込は「誰かに相談したい」需要が多い

「グッドカミング」では、Webでの保険申込も扱っています。石田教授はこういった形式の保険商品についてどう思われますか?

石田教授

「Web申込」は手軽で、若い方はよく利用する傾向がありますね。

「生命保険文化センター」の資料に基づいて調査をしたことがありまして、面白い結果があったのでそのお話をしましょう。(※元第一生命経済研究所 山本祥司氏との共同研究)

私たちは保険の加入方法について、営業職員などに説明を受ける「受動」アプリやWebを利用して自分で申し込む「能動」に分けました。

自分で調べてWebサイトから保険に入った「能動」の人に聞いてみると、次は「受動」で保険を選びたいと言うんです。

特に若い人だとWeb完結の申込やアプリに慣れていて、能動的に契約する方も一定数いらっしゃるでしょう。

とはいえ、保険は商品内容や約款が非常に複雑で、本当に役に立つ保険かは実際に入って経験してみるまで分からない部分が多々あります。

だから能動で入った人は、次に保険を選ぶ時は受動に加入したいと思うわけです。

逆に、「最初は受動で入ったから次は能動」と考える方はいないんでしょうか?

石田教授

皆無ではありませんが、数としては少ないですね。

最初から「受動」…勧誘を受けて保険に入ろうとする層はWebやアプリに疎い方が多く、次も受動で申し込みをするようです。

一度契約したことがあるから大体わかっているし安い保険を自分で探して…とはあまりならない。

給付を受けられる事由や免責事項が分からないとか、必要な保障を付けられなかったことが起こりえますからね。

もう一つ言えば、「能動」で加入する人も保険商品の内容を見ているとは限らないんです。

何を見ているかと言うと、保険会社の支払い能力や創立年度、規模を見て「安定していそうだな」とかで判断する。

不信感を抱く要素がないかチェックして、後はなんとなくで選ぶんですね。

石田教授

申込はできても、あまり満足はできなかったのではないでしょうか。

保険は将来の支払い能力が大事ですから、そこに懸念がないか確認するのは当然かと思います。

Web申込をした人は100%その方法を望んだというより、アクセスして申し込もうと思った後に苦労していたのかもしれません。

死亡保障や収入保障など、将来を守るような保険で失敗すると、後に禍根が残るリスクもあります。

営業職員から何度もコンタクトを取られて嫌だと思うのもあるかもしれませんが、そこは勧誘する側がスマートに情報共有して、信頼を築くべきところですね。

保険のWeb申込をやっている会社で団体・協会を作り、協力してアドバイスできるような仕組みがあれば良いかもしれません。

最後に、今後保険の在り方はどう変わっていくべきだと思いますか?

石田教授

地域の問題を自治体・保険会社が協力し解決する動きが求められます。

独居老人の住居の問題、世帯自体の救済、隣人とのトラブルなど、地域全体に関わる問題を解決できる保険の需要は高いです。

このように何らかの問題を解決する目的を持つ保険を「パーパス型保険」と言います。

公的な取り組みだけではどうにもならない、地域が抱える問題を民間企業の叡智で解決するような保険が必要でしょう。

そういうものに対して、地方自治体や国としても積極的に開発段階から金銭面を含めた支援・援助をしていく。

官と民、公と私で協力関係を作っていって、タッグを組んで問題解決に取り組む動きをするべきだと考えます。

パーパス型保険とは?
特定の目的(パーパス)を達成するための保険を指す。

【まとめ】習慣を変え、協力して将来の自分達を守ろう

今回のインタビューでは、石田教授から年金の仕組みや日本人特有のお金への価値観、金銭感覚を今から養う方法についてお伺いしました。

今回のまとめ
🟣発生確率が低いが被害の大きいリスクを無視すべきではない
🟣今後は公的年金を私的年金で補い、自ら積み立てる動きが必要
🟣日本人が投資に消極的なのは、市場構造が理由
🟣過去の成功体験・習慣から抜け出すべき

任意保険を選択するかどうかは、それぞれのリスク意識次第。

災害のように発生頻度が低く、発生時の損害が大きい事柄へのリスク意識が十分でない企業・個人は多いそうです。

今後は少子高齢化の進行に伴って公的年金の支給額が下がっていくので、老後の安定した生活を目指すには私的年金や投資などで資産を積み立てる動きが求められるのは確定事項と言えるでしょう。

私たちは高度経済成長期から引き継がれた成功体験や習慣に基づくのではなく、今後を考えてお金と向き合わなくてはいけません。

一つずつ、小さな習慣から積み重ねていくのが将来の自分、ひいては社会の安定に繋がると考えると「お金を真剣に考える」モチベーションも高まるのではないでしょうか。

関西大学

石田成則/関西大学教授
1991年慶応義塾大学大学院商学研究科博士課程修了後、1991年~2015年まで山口大学経済学部の助教授と教授を経て、2015年から関西大学政策創造学部教授。2009年3月に早稲田大学にて商学博士を取得。所属学会は、日本保険学会(理事長)、生活経済学会(理事)、日本年金学会、日本労務学会、日本ディスクロージャー研究学会など。

専門分野・得意分野
社会保障、福祉政策、企業福祉、保険
→関西大学 学術情報システム